「カロリー収支」の正体 ― TDEEの計算法と、40代の代謝低下という思い込みを検証する

栄養

前回の記事「痩せる」とは何か?最新研究から考える、体脂肪を落として筋肉を残す方法」では、体重減少と体脂肪減少は同じではないという前提を確認した。何kgではなく、減った内訳(脂肪か、除脂肪量か)を見よという話だ。

その大原則の土台にあるのが「カロリー収支(エネルギー収支)」である。今回はこの土台部分を数値で分解する。TDEE(総消費カロリー)はどう計算するのか、赤字・黒字はどの程度に設定すべきか、そして「40代から代謝が落ちる」という広く信じられている前提は、最新の研究でどこまで裏付けられるのかを見ていく。

そもそも「カロリー収支」とは何か

長期的に見れば、体重の増減は摂取エネルギーと消費エネルギーの差分で決まる。これは生理学というより熱力学の話であり、長期トレンドとしては例外を認める余地がほとんどない。ただし、この原則がそのまま日々の体重の動きを説明するわけではない点には注意が必要だ。水分・グリコーゲン・消化管内容物の変動だけで体重は1日に1〜2kg動くため、「収支」が意味を持つのはあくまで数週間単位の平均的なトレンドとしてである。

減量では古典的に「体重1kgの減少には約7,700kcal(3,500kcal/lb)の累積エネルギー赤字が必要」という経験則が使われてきた[7]。ただし、これは体重減少を正確に予測する固定的な法則ではない。実際に減る体重には脂肪だけでなく除脂肪量や水分の変化も含まれ、その内訳はもともとの体脂肪量などによって変わる。Hallの動的モデルでは、初期の体脂肪量が多い人ほど体重1kgの減少に必要な累積赤字は大きくなり、この7,700kcalという経験則に近づく一方、体脂肪量が少ない人ではこの経験則が必要な赤字を過大評価する傾向が示されている[7]。除脂肪量はエネルギー密度が脂肪より低いため、痩せている人ほど「減る1kg」に占める低密度な組織の割合が増える、という理屈である。

加えて、減量が進むにつれて体重・除脂肪量の減少に伴って消費エネルギーそのものも自然に低下し、さらに体組成の変化だけでは説明しきれない適応的な代謝変化(adaptive thermogenesis)が加わる場合もあるため、「500kcalの赤字×14日=体脂肪1kg減」のように直線的には進まないことが示されている[8]。

TDEEの内訳を分解する

「消費カロリー」とひとくくりにされがちだが、実際には大きく3つの要素で構成されている。

要素内容総消費に占める目安の割合
REE/RMR(安静時代謝)呼吸・心拍・体温維持など生命維持に使うエネルギー約60〜70%
TEF(食事誘発性熱産生)消化・吸収・代謝に使うエネルギー。タンパク質で特に高い約8〜15%
身体活動によるエネルギー消費NEAT(運動以外の日常活動)+EAT(意図的な運動)の合計個人差が非常に大きい

このうち身体活動は、さらにNEAT(家事・通勤・貧乏ゆすりなど)とEAT(意図的なトレーニング)に分けられるが、両者の配分は生活パターン次第で大きく変わるため、固定的な割合として示すのは実態に合わない。

REEはTDEEの中で最大の構成要素であるため、TDEE推定の出発点になる。一方で、実際のTDEEの個人差の多くは活動量側の変動によって生まれるため、REEを正確に求めても、そこから先の見積もりには相応の誤差が残る。

安静時エネルギー消費量(REE)の求め方 ― Mifflin-St Jeor式とその精度

REE(安静時エネルギー消費量。BMRより測定条件がやや緩い、実務上ほぼ同義で扱われる指標)の推定式にはHarris-Benedict式やKatch-McArdle式など複数あるが、一般成人を対象とした推定式として広く利用されている代表的なものの一つがMifflin-St Jeor式である[1]。498人のデータをもとに1990年に発表された。

男性: REE = 10×体重(kg) + 6.25×身長(cm) − 5×年齢 + 5 女性: REE = 10×体重(kg) + 6.25×身長(cm) − 5×年齢 − 161

2005年に行われた予測式の系統的レビューでは、主要な推定式を比較した結果、健常な非肥満・肥満成人において実測RMRの±10%以内に収まる人の割合が、Mifflin-St Jeor式でもっとも高かったと報告されている[2]。ただし、これはあくまで「集団平均としての精度が比較的高い」という話であり、個人差(除脂肪量の構成、ホルモン状態、遺伝的要因など)による誤差は一定程度残る。したがって算出したTDEEは「仮説」として扱い、2〜3週間の実測(体重・体組成の変化)で答え合わせをするという運用が現実的である。

推定TDEE = 推定REE × 活動係数

という形で最終的なTDEEを出すのが一般的だが、この活動係数は生理学的に決まった定数ではなく、初期値をつくるための実務上の近似にすぎない。最初の2〜3週間の体重変化を見て、推定TDEEや摂取カロリーの設定を補正していく前提で使うべき数値である。

「40代から代謝が落ちる」は本当か

トレーニング指導の現場でよく聞かれる前提に「40代を過ぎると代謝が落ちて痩せにくくなる」というものがある。これについては、2021年に『Science』誌に掲載された大規模研究が重要な知見を示している[3]。

29カ国、6,400人以上を対象に二重標識水法(doubly labeled water)という高精度な手法で総エネルギー消費量を測定したこの研究では、体格・除脂肪量などで調整した消費エネルギーは20歳から60歳まで著しく安定しており、明確な低下傾向が確認されるのは60歳以降であると報告されている[3]。

つまり「40代になっただけでTDEEが大きく低下する」という説明は、この研究の示す実像とは一致しない。確信度:高(大規模かつ精度の高い測定手法によるデータであるため)。

では、なぜ40代で体は変わりやすいのか

代謝そのものが年齢だけで急落するわけではないとしても、40代以降に体組成が変わりやすくなる実感には別の説明がある。ここは前回の記事とも接続する部分だ。

第一に、加齢に伴う除脂肪量の減少である。REEは除脂肪量と強く相関することが分かっており、除脂肪量が減ればREEも下がりやすい。ただし、ここで「除脂肪量=筋肉」と単純化するのは不正確である。除脂肪量には骨格筋のほか肝臓・脳・心臓・腎臓なども含まれ、これらの臓器は体重に占める質量の割合こそ小さいものの、単位重量あたりの代謝率は骨格筋よりはるかに高く、REEへの寄与が大きい[9]。したがって「筋肉を維持すればREEの低下をすべて防げる」とまでは言えないが、骨格筋を中心とした除脂肪量の維持という点で、レジスタンス運動は有効な手段の一つである。

第二に、活動量(NEAT・EAT)の変化である。仕事や生活パターンの変化で日常的な身体活動量が減れば、TDEEはその分だけ下がる。これは代謝の生理的な低下というより、行動量の変化として説明できる部分が大きい。

つまり「40代の代謝低下」の実態を年齢だけで説明するのは無理があり、除脂肪量の変化、日常活動量の変化、摂取量の変化、生活習慣の変化など、複数の管理可能な変数が絡み合った結果として捉える方が実態に近い。

カロリー赤字の目安 ― 脂肪を落として筋肉を守る設定幅

赤字の大きさは、除脂肪量の維持・増加に影響する重要な要因の一つである。2022年に発表されたメタ解析・メタ回帰では、レジスタンストレーニングを行っていてもエネルギー不足の程度が大きいほど除脂肪量の増加が抑えられることが示されており、赤字が1日あたり約500kcal程度になると、レジスタンストレーニングによって本来見込める除脂肪量の増加分が平均的に相殺される、と推定されている(筋力そのものへの影響は、赤字の程度と有意な関連が見られなかった)[4]。これは「500kcalを境に急に筋肉が減り始める」という明確な閾値という意味ではなく、あくまでメタ回帰による平均的な推定値である点には注意したい。とはいえ、筋肉を守ることを優先するなら赤字を500kcal/日より大きくしすぎないことが、一つの根拠のある目安にはなる。

実際の減量ペースを比較した研究もある。24人のエリートアスリートを対象に、週あたり体重の0.7%減(緩速)と1.4%減(速いペース、実際の平均は約1.0%)を比較したところ、緩速群では除脂肪量が有意に増加した(+2.1%)のに対し、速いペース群では変化が見られなかった(−0.2%)。ベンチプレスの1RMも緩速群で+13.6%、速いペース群で+6.4%と、緩速群が上回った[5]。対象が若いエリートアスリート24人という限定的な集団である点は踏まえておく必要があるが、「速いペースほど除脂肪量・筋力の面で不利になりやすい」という方向性自体は他の知見とも整合する。

これらを踏まえた、体重減少ペースとしての実践上の目安は次のようになる。

目的体重減少ペースの実践上の目安備考
脂肪優先・筋肉保持を重視体重の0.5〜0.7%/週レジスタンス運動と十分なタンパク質摂取を併用
標準的な減量体重の0.5〜1.0%/週体脂肪率やトレーニング歴に応じて調整
期限のある減量(大会前など)体重の1%/週前後までそれ以上は除脂肪量減少のリスクが高まりやすい

一方、エネルギー赤字そのものの大きさという視点では、先述のMurphyらのメタ回帰から、筋肉の維持を重視する場合には500kcal/日を大きく超える赤字を長期間続けないことが一つの目安になる[4]。体重比の%と赤字kcalは厳密には換算できる関係ではない(個人のTDEEや体組成によって同じ%でもkcalは変わる)ため、この記事ではあえて両者を別の指標として扱っている。

国際スポーツ栄養学会のポジションスタンドでも、除脂肪量を保ちながらの減量には、減量速度を抑えつつ十分なタンパク質摂取とレジスタンス運動を組み合わせることの重要性が指摘されている[6]。

カロリー黒字の目安 ― 「リーンバルク」という考え方

筋肉を増やす局面でも、黒字を大きくすればするほど良いわけではない。黒字が大きいほど体脂肪の増加速度も上がるためだ。ただし、この領域は減量に比べて直接的な介入エビデンスの層が薄く、示されている数値の多くは実務的な指針としての性格が強いことは断っておきたい。

ナチュラルボディビルダー向けの栄養に関するレビューでは、トレーニング初心者〜中級者は維持カロリーの10〜20%増(体重比では週0.25〜0.5%程度の増加)、トレーニング経験の長い上級者ほど5〜10%増(週0.25%程度まで)と、より保守的な黒字にとどめることが提案されている[10]。トレーニング経験が長くなるほど筋肥大の速度そのものが小さくなるため、それに合わせて黒字も小さくするべき、というのが背景にある考え方だ。固定のkcal値ではなく、維持カロリーに対する%と週あたりの体重増加率で考え、体重の推移・腹囲・トレーニングパフォーマンスなどを見ながら個別に調整するのが実務的である。

実践ステップ ― 計算から調整までの4段階

  1. Mifflin-St Jeor式でREEを算出する(体重・身長・年齢を入力)
  2. 活動係数をかけてTDEEを推定する(デスクワーク中心か、立ち仕事中心か、トレーニング頻度はどの程度かで係数は変わる。活動係数にはいくつかの分類法があり、日常活動とトレーニング量を完全に数値化できるものではないため、まずは目安として選ぶ)
  3. 目的に応じて赤字・黒字を設定する(上記の表を参考に、無理のない幅から始める)
  4. 毎日の体重を測定し、7日間平均の推移を2〜3週間単位で確認する。必要に応じて腹囲やトレーニング記録(挙上重量・回数など)も併用し、TDEEの見積もりを補正する

体組成計の除脂肪量・筋肉量の表示は水分状態によるブレが大きく、日々の増減に一喜一憂すると誤った判断につながりやすい。体組成の変化を見る場合も、単発の数値ではなく数週間単位のトレンドで捉えることをおすすめする。

計算式はあくまで出発点であり、答え合わせは自分の体で行うものだという前提を忘れないようにしたい。手計算が面倒な場合は、自分の目標カロリーとPFCバランスを一括で出せる簡易計算ツールも用意しており、活動状況から活動係数の初期値を選べるようにしているので、そちらも活用してほしい。

まとめ

「40代だから代謝が落ちて当然」という説明は、少なくとも大規模研究のデータからは支持されにくい。年齢そのものよりも、除脂肪量・日常活動量・摂取量・生活習慣といった管理可能な変数の変化が、体組成の変わりやすさに関わっている可能性が高い。

カロリー収支は、TDEEという仮説値からスタートし、赤字・黒字の幅を目的に応じて調整し、実測で補正していくプロセスである。数字を追うこと自体が目的ではなく、前回の記事で確認した「脂肪を落として筋肉を残す」という基準に、収支という土台をどう使うかが本質だと言える。


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参考文献

  1. Mifflin MD, St Jeor ST, Hill LA, Scott BJ, Daugherty SA, Koh YO. A new predictive equation for resting energy expenditure in healthy individuals. Am J Clin Nutr. 1990;51(2):241-247.
  2. Frankenfield D, Roth-Yousey L, Compher C. Comparison of predictive equations for resting metabolic rate in healthy nonobese and obese adults: a systematic review. J Am Diet Assoc. 2005;105(5):775-789.
  3. Pontzer H, Yamada Y, Sagayama H, et al. Daily energy expenditure through the human life course. Science. 2021;373(6556):808-812.
  4. Murphy C, Koehler K. Energy deficiency impairs resistance training gains in lean mass but not strength: a meta-analysis and meta-regression. Scand J Med Sci Sports. 2022;32(1):125-137.
  5. Garthe I, Raastad T, Refsnes PE, Koivisto A, Sundgot-Borgen J. Effect of two different weight-loss rates on body composition and strength and power-related performance in elite athletes. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2011;21(2):97-104.
  6. Aragon AA, Schoenfeld BJ, Wildman R, et al. International society of sports nutrition position stand: diets and body composition. J Int Soc Sports Nutr. 2017;14:16.
  7. Hall KD. What is the required energy deficit per unit weight loss? Int J Obes (Lond). 2008;32(3):573-576.
  8. Hall KD, Sacks G, Chandramohan D, Chow CC, Wang YC, Gortmaker SL, Swinburn BA. Quantification of the effect of energy imbalance on bodyweight. Lancet. 2011;378(9793):826-837.
  9. Wang Z, Heshka S, Zhang K, Boozer CN, Heymsfield SB. Specific metabolic rates of major organs and tissues across adulthood: evaluation by mechanistic model of resting energy expenditure. Am J Clin Nutr. 2010;92(6):1369-1377.
  10. Iraki J, Fitschen P, Espinar S, Helms E. Nutrition recommendations for bodybuilders in the off-season: a narrative review. Sports (Basel). 2019;7(7):154.

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