BFRトレーニング(血流制限トレーニング)に興味を持つ人ほど、こんな疑問を抱く。
「血流を制限して本当に大丈夫なのか」「何か体に悪いことが起きないか」
その不安は正直なところだと思う。私自身、指導歴約20年の中で、実際に副作用に近い出来事を何度も経験してきた。気持ち悪くなったクライアント、一過性脳貧血を起こした方、そして70代のクライアントが意識を失って失禁してしまったケースも経験している。
だからこそ、「危険かどうか」という問いには「条件次第でリスクはある」と正直に答えたい。そのうえで、リスクを知り、適切な準備をすることで安全に継続できることも伝えたいと思っている。
BFRトレーニングは本質的に危険なのか
結論から言うと、適切な方法・適切なコンディションで行えば、安全性は高いトレーニング方法だ。
BFRトレーニングは日本発祥の加圧トレーニングを起源とし、現在は世界中の研究機関でその安全性と有効性が検証されている。健康な成人を対象とした多くの研究で、適切な圧力設定と運動強度のもとでは深刻な有害事象は報告されていない(Lixandrão et al., 2018; Patterson et al., 2019)。
ただし、「適切な方法で行えば」という前提が崩れると話は変わってくる。
現場で実際に起きた副作用の話
私が20年の指導の中で経験してきたことを正直に書く。
一番多いのは気分が悪くなるケースだ。前回と変わらない強度のメニューでも、セッション後半に疲労が蓄積してくると「なんか頭がぼーっとする」「気持ち悪い」と訴えるクライアントは、通常のトレーニングに限らず加圧トレーニングでも珍しくない。ほとんどはベルトを外して休むことで回復するが、特に直前・直後の食事の状況によって起きやすい傾向がある。
より深刻だったのは一過性脳貧血のケースだ。セット終了直後に急激に血圧が下がり、顔色が青ざめて冷や汗をかいた状態になる。ベルトを外してすぐ横になり、脚を上げて安静にすることで回復したが、トレーナー駆け出しのころは当事者もこちらも相当焦った。
点状出血のケースも経験している。初回セッションで細身の女性に施術した際、最大限の注意を払ったつもりだったが、ベルトを外した後に皮膚に点状の出血が確認された。健康上の問題はなく経過観察としたが、消えるまでに約2週間かかった。細身の方は皮下脂肪が薄く、同じ圧設定でも血管や皮膚への影響が大きくなりやすい。圧設定が高すぎた可能性は否定できない。初回・細身・女性という条件が重なったケースとして、今でも記憶に残っている。
そして忘れられないのが、70代のクライアントが気を失って失禁してしまった出来事だ。後日談として分かったことだが、そのセッションの前日、クライアントは眠れていなかったようだ。当日の体調確認や血圧測定はいつも通り行っていたが、セッション中の変化を十分に拾えていなかった。急なめまいがあったのは鮮明に覚えている。すぐ落ち着いたと思っていたが、そのまま意識を失った。事前のリスク管理と、セッション中の継続的な観察——その両方が足りていなかった。
この経験を境に、セッション前のコンディション確認だけでなく、セット間の表情・呼吸・顔色のモニタリングを指導の一部として組み込んだ。開始前には「本日の体調はいかがですか」「昨晩の睡眠は取れていましたか」「朝食はとりましたか」「最近体調に変化はありませんか」を必ず確認している。数秒の確認が、大きなリスクを回避する。
報告されている主な副作用と発生条件
学術的に報告されている副作用の主なものを整理する。
軽症のもの 軽いしびれや皮膚の赤み、内出血(皮下出血)、筋肉痛は比較的よく見られる。これらはベルトの圧力が強すぎる場合や、皮膚が薄い高齢者に出やすい。
循環器系の反応 一時的なめまい、気分不良、一過性脳貧血はBFRトレーニングで報告される代表的な副反応だ。静脈還流の変化により血圧が急激に変動することが原因とされている。
稀だが重篤なリスク 深部静脈血栓症(DVT)や横紋筋融解症は非常に稀だが報告されている。血栓リスクのある人、抗凝固薬を服用している人には禁忌とされている(Hughes et al., 2021)。
副作用が起きやすいコンディションのコントロールが難しい理由
私が現場で最も痛感しているのはここだ。副作用の多くはコンディションに起因するが、そのコンディションのコントロールが非常に難しい。
気を失った70代のクライアントのケースを振り返ると、原因はいくつも重なっていた。
前日の睡眠不足、加齢による自律神経の調節機能低下、直前直後の食事——これらは「ちょっと調子が悪い」という自覚症状に直結しないことが多い。本人も「少し疲れているかな」程度の認識で来館してしまう。
特に40代以降では、こうした自律神経の反応が鈍くなる傾向がある。「なんとなくだるい」を押して来てしまうクライアントは少なくない。
だからこそ、指導者側が積極的に確認する必要がある。
私が現在確認しているポイントはこうだ。
- 前日の睡眠が5時間を下回っていないか
- セッション2時間以内に食事を取っているか(空腹でないか)
- 食事直後(1時間以内)ではないか
- 最近、立ちくらみや倦怠感が続いていないか
- 服薬内容に変化がないか(特に降圧薬・利尿薬)
これを毎回確認することで、ハイリスクな状態でのトレーニングを回避できる確率が大きく上がる。
40代以降が特に注意すべきポイント
40代は体の変化が加速する時期だ。高血圧、血管の弾力低下、自律神経の調節機能の衰え——これらはBFRトレーニングのリスクと直接関係する。
特に注意が必要なのは以下のケースだ。
高血圧・心疾患のある人 BFRトレーニングは運動中に血圧を一時的に上昇させる。収縮期血圧が160mmHg以上の場合や、心疾患の既往がある場合は、医師への相談を経てから開始することを強く勧める。
降圧薬・利尿薬を服用している人 降圧薬により安静時血圧が低い状態でトレーニングを行うと、運動後の血圧低下が顕著になりやすい。めまいや失神リスクが上がるため、セッション後の体位変換にも注意が必要だ。
長期間運動をしていなかった人 運動習慣がない状態でBFRトレーニングを始めると、循環器への刺激が大きくなりやすい。最初の数セッションは特に慎重なモニタリングが必要だ。
トレーニング中のセルフチェック
トレーニング中に意識したい2つのポイント
適切な方法で行えばBFRトレーニングの安全性は高い。ただし「適切に行う」ためには、トレーニング中の自己管理も欠かせない。特に40代以降は、体からのシグナルを見落としやすい傾向があるため、この2点は意識的に確認してほしい。
ベルトは「少しきつい」程度に留める
BFRトレーニングの効果を高めようとして、ベルトを強く巻きすぎるケースがある。しかし強く巻けば効果が上がるわけではない。適切な圧力はあくまで静脈血流を制限しながら動脈血流は維持できる範囲であり、強く巻きすぎると皮下出血・しびれ・神経障害のリスクが上がる。目安は「少しきつい、でも痛くはない」程度だ。点状出血のケースでも、圧設定のわずかなズレが2週間消えない出血につながった。初回は特に、控えめな圧から始めることを勧める。
しびれ・強い痛み・気分不良はすぐ外すサイン
トレーニング中に以下の症状が出たら、迷わずベルトを外して休むことが原則だ。
- 強いしびれや感覚の消失
- ベルト部位の鋭い痛み
- 気分不良・頭のふらつき・吐き気
軽いしびれや「張り感」はBFRトレーニング中によく起きる感覚で、必ずしも異常ではない。ただし「強い」「鋭い」「気分が悪い」という感覚は体が限界を超えているサインだ。我慢してセットを続けることにメリットはない。外してすぐ横になり、症状が続くようであればトレーニングを中止する。
専門家とおこなう意味
実際、BFR用のベルトは市販されており、自宅でのトレーニングに活用している方も多い。適切なベルトを選び、正しい使い方を理解したうえで行うなら、自宅でのBFRトレーニングは選択肢の一つだ。 ただし私が「最初は専門家と行うことを強く勧める」理由は一つに集約される。コンディションの異変に、本人は気づけないことが多いからだ。
専門家の役割は、単に技術的な指導をすることではない。セッション前の状態確認、セット中の観察、セット後のモニタリングまでを含めたトータルの管理だ。
KAATSU JAPANをはじめとする認定資格や、NSCA-CPT・CSCSといったトレーナー資格は、こうした安全管理の知識を担保する一つの基準になる。資格の有無がすべてではないが、「どういう教育を受けているか」は選ぶ際の一つの指標にしてほしい。
まとめ|リスクを知ることが、安全な一歩につながる
BFRトレーニングのリスクと安全性について、現場経験を交えてまとめた。
どんな運動にもリスクはある。ランニングで膝を痛める人もいれば、ジムでのフリーウェイトで腰を傷める人もいる。BFRトレーニングが特別に危険なわけではない。ただし、血流を操作するという性質上、正しい知識なしに始めることのリスクは他の運動より高いと私は考えている。
この記事で伝えたかったのは「BFRは危険」ではなく、**「知ったうえで備えれば、安全に継続できる」**ということだ。
副作用の多くは、圧設定・コンディション管理・体のシグナルへの対応、この3点を押さえることで大幅に回避できる。20年の指導経験の中で失敗もしてきたが、その経験があるからこそ言える。準備と管理をセットにすれば、BFRトレーニングは40代以降にとって 本当に有効な手段だ。
軽い負荷で筋肉に強い刺激を与えられる。関節への負担が少ない。加齢による筋力低下に対して、現実的なアプローチができる。リスクを正しく理解したうえで始める人ほど、長く安全に続けられる。
リスクがある、という話を読んだあとこそ、一歩踏み出してほしいと思っている。
この記事を読んだ方へ、次のステップ
▶ 40代が失敗しないBFR・加圧バンドの選び方|安全な圧設定の目安も解説
▶ BFRトレーニングの効果はいつから?40代が変化を感じるまでの期間
▶ BFRトレーニングのメリット・デメリット
参考文献
Hughes L, et al. (2021). Blood flow restriction training in clinical musculoskeletal rehabilitation. British Journal of Sports Medicine, 51(13), 1003–1011.
Lixandrão ME, et al. (2018). Magnitude of Muscle Strength and Mass Adaptations Between High-Load Resistance Training Versus Low-Load Resistance Training Associated With Blood-Flow Restriction. Sports Medicine, 48(2), 361–378.
Patterson SD, et al. (2019). Blood Flow Restriction Exercise: Considerations of Methodology, Application, and Safety. Frontiers in Physiology, 10, 533.


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