「持久系競技にウェイトトレーニングは必要か?」という議論は長年続いている。しかしBFRトレーニングという選択肢が加わることで、この問いへの答えが変わりつつある。
私はNSCA-CPT・CSCS・BFRトレーナーとして、競技者から一般クライアントまで幅広く指導を続けてきた。この記事では、マラソン・トライアスロン・自転車・水泳などの持久系競技者がBFRトレーニングを取り入れるべき理由を、最新の研究データと現場経験をもとに解説する。
持久系競技者が抱える「筋力とスタミナのジレンマ」
ランナーやトライアスロン選手が筋力トレーニングを避ける理由はシンプルだ。
- 高重量トレーニングによる筋肉痛が翌日の練習に影響する
- 体重増加が競技パフォーマンスに直結する
- オーバートレーニングのリスクが高まる
しかしVO2maxや持久パフォーマンスを高めるためには、心肺機能だけでなく脚の筋力・筋量の維持も重要だ。特に長距離では後半の筋疲労が失速の主因になることが多い。
BFRトレーニングはこのジレンマを解決する可能性がある。軽い負荷・短時間で筋力と有酸素能力の両方に働きかけられるという特徴が、持久系競技者のニーズと一致するからだ。
研究データで見る持久系競技者へのBFR効果
VO2maxの向上
20研究・407名を対象としたメタアナリシスでは、BFRトレーニングがVO2maxに中程度の効果(ES=0.465、p<0.001)をもたらし、持久パフォーマンスにも有意な改善(ES=0.693、p<0.01)が確認された。
ランニング+BFRの組み合わせ効果
8週間のランニングトレーニングにBFRを組み合わせた群は、BFRなし群と比較してVO2maxが5.1%対−1.1%と有意に増加し、膝伸展筋力も16.5%対−5.9%と大きく向上した。さらにBFR群では脚筋肉量の増加とテストステロン/コルチゾール比の維持が確認され、BFRなし群では同比率が有意に低下した。 PubMed
この「テストステロン/コルチゾール比の維持」は重要だ。持久系トレーニングでは高強度練習によってコルチゾールが上昇し、筋肉の分解が進みやすい。BFRを組み合わせることでこの比率が維持されたということは、筋肉の分解を抑えながら有酸素能力を高められる可能性を示唆している。
競技種目を問わない効果
マラソン・トライアスロン・自転車・水泳・ボートなどの持久系競技者を対象とした研究では、BFRトレーニングを取り入れた群のVO2max変化率が+3.7〜+11.6%であったのに対し、BFRなし群は−1.3〜+6.8%にとどまり、BFR群が一貫して上回った。 nih
なぜBFRが持久系競技者に効くのか
低酸素環境による心肺適応
BFRで血流を制限すると、筋肉内が局所的な低酸素状態になる。この環境は高地トレーニングの原理と類似しており、赤血球産生を促すエリスロポエチン(EPO)の分泌増加や、ミトコンドリア密度の向上が期待できる。
高地トレーニングは費用・環境的に誰でもできるわけではない。BFRは平地でも同様の生理的刺激を一部再現できる手段として注目されている。
脚筋力の強化がランニングエコノミーを改善する
持久系パフォーマンスを決める要素はVO2maxだけではない。**ランニングエコノミー(同じ速度を維持するための酸素コスト)**も重要だ。脚の筋力が高いほど、同じペースを維持するための筋肉の動員割合が下がり、疲労の蓄積が遅くなる。
BFRによる脚筋力・筋量の向上は、後半の失速防止とランニングエコノミーの改善につながる可能性がある。
持久系競技者向けBFRの取り入れ方
いつ使うか
| タイミング | 目的 |
|---|---|
| オフシーズン | 筋力・筋量の積み上げ。高重量不要で関節への負担も少ない |
| シーズン中の補助 | メイン練習後のフィニッシャーとして。脚の筋持久力強化 |
| ケガ・疲労回復期 | 高重量を避けながら筋萎縮を防ぐ |
| テーパリング期 | 強度を落としながら筋肉への刺激を維持する |
プロトコルの目安
持久系競技者向けのBFRプロトコルは、筋肥大目的と基本的に同じだ。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 負荷 | 1RMの20〜40% |
| セット構成 | 30-15-15-15(合計75回) |
| インターバル | 30〜60秒 |
| 頻度 | 週2〜3回 |
| 主な種目 | レッグプレス・スクワット・レッグカール・カーフレイズ |
ランニングと同日に行う場合は、BFRを走練習の後に実施すること。BFRによる疲労がランニングフォームや強度に影響するのを避けるためだ。
現場での実感:市民マラソンに取り組む50代のクライアントが「記録の伸びが悪く、体型も崩れてきた」という悩みを抱えていた。週2回のBFRスクワット・レッグカールなどを3ヶ月取り入れた結果、走行スピード、良い記録が出たと話してくれた。高重量を使わないため、翌日の練習への影響も最小限に抑えられた点が継続できた理由だと感じている。
注意点
持久系競技者がBFRを取り入れる際に特に意識したい点がある。
- ランニング中のBFR(歩行BFR)は上級者向け:通常の低負荷レジスタンス種目から始める方が安全だ
- 圧力は低め設定が基本:持久系競技者は下肢の血管が発達しているケースも多く、個人差が大きい
- 週の総トレーニング量を管理する:BFRを追加することで総負荷が増えるため、他の練習量とのバランスが重要だ
まとめ
| 効果 | エビデンス |
|---|---|
| VO2max向上 | メタアナリシスで中程度の効果(ES=0.465) |
| 脚筋力向上 | ランニング+BFRで+16.5%(BFRなし−5.9%) |
| 持久パフォーマンス改善 | メタアナリシスで有意な効果(ES=0.693) |
| 筋分解の抑制 | テストステロン/コルチゾール比の維持 |
BFRトレーニングは「筋肥大・リハビリのための手法」というイメージを持たれがちだが、持久系競技者のパフォーマンス向上においても有効なエビデンスが蓄積されている。高重量なしで脚筋力とVO2maxを同時に高められる点は、練習量が多い競技者にとって特に大きなメリットだ。
オフシーズンの筋力強化からシーズン中の補助トレーニングまで、目的に合わせて取り入れてみてほしい。
よくある質問(FAQ)
Q. ランニング中にBFRを巻いて走っても効果がありますか? A. 歩行・低強度ランニング中のBFRに関する研究はあるが、一般的な競技者には低負荷レジスタンス種目でのBFRから始めることを推奨する。ランニング中の圧管理は難易度が高く、専門家の指導が必要だ。
Q. BFRは毎日やっても大丈夫ですか? A. 週2〜3回が基本だ。練習量が多いシーズン中は特にオーバートレーニングに注意が必要だ。→「BFRトレーニングは毎日やっていい?」を参照。
Q. トライアスロンや自転車競技にも同じ効果がありますか? A. 研究ではマラソンだけでなく自転車・水泳・ボートなどの持久系競技全般で効果が確認されている。脚の筋力向上と有酸素能力の改善は競技種目を問わず有効だ。
▶ BFRトレーニングのメリット・デメリット ▶ BFRトレーニングと通常トレーニングの違い
▶ BFRトレーニングを始める前に|やってはいけない人
引用文献


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